三度の飯ほど田口好き

田口担のひとりごと

「青い瞳」を見てきました

 KAT-TUN上田竜也くんが出演している、中村獅童さん主演の、前田敦子ちゃん共演の、舞台「青い瞳」を見てきました。鹿児島から東京まで。

 まだ楽日を迎えておらず、前情報を何も入れず、まだ買ってきたパンフレットを読んでいない状態で感想を書きますので、色々ご容赦&ご注意ください。ここから先は隠します。

 

 びっくりするほどネタバレです。びっくりするほどネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ツトムは死にたがっていたのか】

 いきなりオチから逆算しますが、物語はサムがツトムを銃殺することでオチがつきます。サムは言います。「これが筋道か」と。

 ツトムは戦争からの帰還兵です。どこの国との戦争かはわかりませんし、主人公たちがいる国が日本とも限りません。「国境警備隊」があるそうです。日本の国境は全て海の上ですが、ツトムが、というかサイトウが着ていた軍服は陸軍のものです。ツトムは「塹壕戦」をしたそうです。塹壕第一次世界大戦で最も盛んに使われ、今でも使われている、歩兵が用いる溝です。この塹壕の存在が第一次世界大戦を壮絶な泥沼に導きました。戦争は長引き、衛生状態は悪く、死者がたくさん出ました。ツトムはそのような悲惨な戦場から戻ってきたのです。ツトムが帰ってきた街も戦火に飲まれたようです。セットには瓦礫のモチーフが多く使われています。しかしツトムが帰ってきた街では民間の若者が気軽に携帯電話を使い、テレビは液晶テレビです。しかし交通網はこれから復旧が進むそうです。しかし民間人は自家用車を持っています。このように舞台設定からしてノイズが多いのです。この舞台はノイズが多いのです。登場人物もまた、全員が何らかのノイズを出しています。

 ツトムは社会復帰が困難な状態にあります。戦争について話を聞かれると、その聞き手に対して都合のいいように話をしてしまうような状態です。(しかし話の内容が嘘か誠かはツトムにしかわかりません)話し口調も定まりません。自分の価値を見失ってしまっていたからです。話は舞台の冒頭に遡ります。夜道、チンピラグループとつきあいのあるミチルを心配してツトムは「ブランコ」という酒場に向かっています。そこにアライというチンピラがインネンをつけます。俺たちをつけていただろう、と。ツトムはそのつもりは無かったけれど、つけていたのかもしれない(つけていたことにしたほうがアライの望みかもしれない?)と自信を喪います。

 ツトムの母親は社会復帰できないツトムを子供の頃の心身ともに無傷な状態に戻って欲しいと、ツトムが子供時代に絵の先生をしていた「タカシマさん」の居場所を突き止めますが、それはミチルがチンピラのコモリに頼んで仕立てあげたニセモノです。ツトムはひと目見て気が付きますが、タカシマさんことオノが「自分のためにタカシマであろうとしている」ことが大事だと言います。ツトムの母はタカシマがニセモノであることに気づきません。というか気づく気づかないの問題ではなく、タカシマに会いさえすればツトムは心身ともに無傷だった子供の頃のように戻ることができるのです。そう信じているのでタカシマが本物かニセモノであるかなど問題ではないのです。戦争などなかったことにできるのです。戦争さえなければ。ツトムの母は言います。戦争さえなければ。戦争への「排除行動」です。ツトムの母親は、サイトウの未亡人がツトムにと渡した、サイトウの遺品である血まみれの軍服も、普段着と一緒に洗濯してしまいます。これはとても母親らしい言動だし情動だと思います。ウロボロスです。なかったことにできるのです。戦争さえなければツトムは「元にもどる」のでしょうか。

 実際は無かったことになどできません。しかしツトムは家族のために健康な民間人であろうと社会復帰を試み、地下鉄の人足に応募します。明日から働き始めというその日、ツトムはサムに射殺されるのです。

 なぜそんな事件がおきたのか?それはチンピラの一人、コモリが殺されたことに端を発します。コモリは何故殺されたのか?それは地下鉄の工事のために「ブランコ」が立ち退きを迫られているからです。コモリは仲間を売りました。結果としてチンピラのたまり場である「ブランコ」は無くなり、地下鉄が開通できます。ゆえにコモリは仲間たちにリンチされ死にました。チンピラたちのコモリへの「排除行動」です。「コモリさえいなければ」ブランコは元に戻るのでしょうか。ミチルはリンチをやめるよう懇願しますがサムは仲間を止めませんでした。サムはミチルがコモリを頼ったことに嫉妬していました。コモリへのサムの「排除行動」です。「コモリさえいなければ」ミチルはサムを頼るでしょうか。その罪をチンピラたちはトシミチというチンピラ一人にかぶせます。そんな折アライは自ら命を絶ちました。アライは戦争に行ったツトムに憧れていました。アライは自分で自分を排除したのでしょうか?アライは何をさえなければと願ったのでしょうか。

 そして事件の日、チンピラたちは警察の追跡から逃れようと走ります。追うのはサイトウの弟である巡査です。殺人実行犯の逃走なので銃の携帯を許可されています。しかしサイトウの弟は人を撃つことに躊躇します。彼は兄のように兵隊ではないのです。それを見たチンピラたちはサイトウの弟から銃を奪おうとします。そして銃を手にしたサムは、制止しようと間に入ったツトムを撃ちます。最初は不幸な事故に見えます。しかしサムは2発、3発とツトムに発砲します。「これが筋道か」とサムは物言わぬツトムに問いかけます。「サム」は「ツトム」を排除したのでしょうか?サムもまた、相手によって自分を変えるひどく不安定な男です。サムの存在そのものがノイズです。時にツトムの命題を代弁するようなモノローグで語り、時にミチルに話しかける時は少年のように爽やかで優しく、チンピラである時は救いようのないクズである。ノイズだらけの狂言回しです。「ツトム」が「サム」に望んだのでしょうか?私は観劇しながら思いました。「サムさえいなければこの話わかりやすいのに」と。

 ミチルは赤く染めた髪のまま、休みがちだった学校へ戻ります。彼女もまたいずれ母親になるのでしょう。そしてこの街はまた復興を続けます。

 

 私が劇中でもっとも印象に残ったシーンは、ツトムの父親がテレビを見ながら、殺人犯に対して「5人も、鬼畜だな」と言ったシーンです。そばにいる息子は戦争でもっとたくさんの人を殺しています。ですがこれが、平和であることなのだと思います。その父親の役は、作・演出である岩松了さん本人が演じています。

 

 あと最後になりましたが前田敦子ちゃんほんとに顔ちっちゃい身体ちっちゃい妖精みたい。声がとろけそう。声量が気にはなりましたがとても良い女優さんになられたと思いました。

 そして母親役の伊藤蘭さん。ランちゃんいつまで経ってもお美しかったです。

 

 あまりまとまってないかもしれません。